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SOLEVAULT No.002|Early Waffle Prototype(アーリー・ワッフル・プロトタイプ)(1971)

1971|RUNNING

目次

Moon Shoeより前に、ワッフルは走っていた。

Nike初期のランニング史を語るとき、必ず登場する名前があります。

Moon Shoe。

1972年、オレゴン州ユージーンで開催された全米オリンピック・トライアルの時期に少量製作された、Nike最初期のワッフルシューズです。

しかしSOLEVAULTでは、No.001 The NikeからMoon Shoeへ直接進みません。

その間に、記録すべき段階が存在するからです。

1971年11月。

Nike公式Department of Nike Archivesによれば、オレゴン大学クロスカントリーチームのメンバーは、すでにワッフルソールの**「early versions(初期モデル)」**を競技で着用していました。

そしてチームはNCAAタイトルを獲得しています。

まだMoon Shoeとして知られる1972年の小ロット試作品より前です。

Oregon Waffleでもない。

Waffle Trainerでもない。

後にNikeを象徴する技術が、まだ正式な商品名さえ確認できない段階で、すでに競技を走っていました。


No.002は「一つの商品名」ではない

最初に、SOLEVAULT No.002が何を意味するのかを明確にしておきます。

Early Waffle Prototypeは、1971年に市販された正式商品名として確認できる名称ではありません。

Nike公式資料も1971年11月に競技使用されたシューズを、固有の商品名ではなく**「early versions」**と表現しています。

さらにBowermanの実験過程では、複数の試作品が作られていました。

したがってSOLEVAULT No.002は、特定の市販モデル一足を指すものではありません。

1971年にBill Bowermanらが進めていたワッフルソール実験のうち、同年11月までに実際の競技へ投入されたことをNike公式資料で確認できる初期ワッフル実験靴群。

これを一つの開発段階として収蔵します。

そのため、

Early Waffle Prototype

という名称はSOLEVAULTによる資料整理上の収蔵名称です。

後世の呼称と当時の商品名を混同しない。

これはSOLEVAULT全体の重要な資料原則です。


すべては、オレゴン大学の新しいトラックから始まった

Bill Bowermanが解決しようとしていたのは、単に「もっと速い靴を作る」という漠然とした問題ではありませんでした。

具体的な路面の問題がありました。

Nike Department of Nike Archivesによれば、オレゴン大学には1969年ごろ、新しいウレタン製トラックが導入されていました。

ところが、その路面は硬く滑りやすく、ランナーを負傷させていました。

Bowerman自身も、その路面選択がうまくいっていないことを認識していたとNikeは記録しています。

問題はグリップでした。

スパイクでは深く食い込みすぎる。

しかし、

フラットシューズでは十分に路面を捉えられない。

では、その中間を作れないか。

軽く、路面を捉え、金属製スパイクに頼らないアウトソール。

そこからワッフルソールにつながる実験が始まります。


答えは研究所ではなく、台所にあった

ここから、Nike史上もっとも有名な開発逸話の一つが始まります。

1971年のある朝。

Bowermanが目を留めたのは、妻Barbaraのワッフルアイアンでした。

しかもNike公式アーカイブは、現在かなり細かな情報まで記録しています。

そのワッフルアイアンは、

Bersted Manufacturing Company Model 251。

Bowerman夫妻が1936年の結婚祝いとして受け取ったものでした。

格子状に並んだ突起。

Bowermanは、その形が自分の求めていた軽量なトラクションを生み出せるのではないかと考えました。

そして液体ウレタンを、家庭用ワッフルアイアンへ直接流し込みます。

結果は成功ではありません。

ワッフルアイアンは接着され、開かなくなりました。

35年間使われてきた結婚祝いのワッフルアイアンを、一度の実験で壊してしまったのです。

しかしBowermanはそこで止まりませんでした。

町へ出て中古のワッフルアイアンをさらに数台購入し、実験を続けます。


最初のワッフルソールは、現在知られる形でもなかった

ここも完成品だけを見ていると分かりにくい部分です。

最初の型から、いきなり現在知られるワッフルソールが完成したわけではありません。

Nike公式によれば、初期の型では凹凸が逆になり、へこんだ形の突起ができました。

そこから型や材料を改良していきます。

さらにBowerman一人だけで完成させたわけでもありません。

Nikeの記録には、実験を進めるため、

タイヤショップ、機械加工業者、靴職人

など地域のさまざまな人々の力を借りたことも残されています。

台所のひらめき。

地域の加工技術。

選手による実走。

失敗。

改良。

ワッフルソールは、こうした反復の中から形になっていきました。


数分で壊れる。ワイヤーで足首を切る。

初期試作品は、現在から見ればかなり荒っぽいものでした。

Nike Department of Nike Archivesは、その失敗も隠していません。

ある初期試作品は、

数分走っただけで崩壊。

別の試作品では、トラクションを得るためラバー混合物へ埋め込まれていたワイヤーが露出し、選手の足首を傷つけました。

現在では「Nike Waffle Sole」は完成された技術として語られます。

しかし1971年の時点では違います。

走れば壊れる。

材料を変える。

また走る。

今度は別の問題が出る。

また作る。

No.002が保存するのは、完成したワッフルソールではなく、その試行錯誤そのものです。


1971年11月、ワッフルソールが競技へ出た

そして1971年11月。

大きな転換点が訪れます。

Nike公式アーカイブによれば、オレゴン大学クロスカントリーチームのメンバーが、ワッフルソールの初期モデルを競技で着用しました。

チームはNCAAタイトルを獲得します。

ここで重要なのは、

「ワッフルソールを履いたからNCAAで勝った」

と単純化しないことです。

Nike公式資料が確認しているのは、

チームのメンバーが初期モデルを着用し、そのチームがNCAAタイトルを獲得した

という事実です。

SOLEVAULTでは、それ以上の因果関係を勝手に加えません。

しかし、この記録だけでも十分に重要です。

1971年11月には、

ワッフルソールが実験室や台所を離れ、実際の競技へ到達していた。

これが確認できます。


1972年になっても実験は続いた

NCAAで使用されたからといって、ワッフルシューズが完成したわけではありません。

1972年の冬から春にかけて、さらに多くの大学選手や地元のSouth Eugene High Schoolの選手たちが初期モデルをテストしました。

つまり、

1971年11月の競技使用 → 完成 → Moon Shoe

という単純な流れではありません。

その間にも複数のテストと改良が存在しています。

ここはSOLEVAULTで年代を追ううえで重要です。

一つの発明が完成して次の商品へ移ったのではなく、

多数の試作品が並行して走りながら、少しずつ次の段階へ進んだ。

それが実際の開発に近い姿です。


そして1972年夏、Moon Shoeへ

1972年夏。

BowermanとGeoff Hollisterは、ユージーンで開催される全米オリンピック・トライアルに向け、小ロットの試作品を手作業で製作します。

これが次にSOLEVAULTが収蔵する、

Moon Shoe

へつながります。

Nike公式資料によれば、この段階のシューズも決して完成度の高いものではありませんでした。

薄いワッフル状のソールへアッパーを組み合わせた非常にミニマルな構造で、Nike Running HistorianのRick Lowerは、裸足で走るような感覚だったと説明しています。

ワッフル状のアウトソールが地面に残す跡が、月面を歩いた宇宙飛行士の足跡を連想させたことが、Moon Shoeという呼び名につながったとNikeは記録しています。

したがってSOLEVAULTでは、

1971|Early Waffle Prototype

1972|Moon Shoe

1973|Oregon Waffle

1975|Waffle Trainer

という大きな系譜を追います。

ただしこれは「4つの完成商品が一直線にモデルチェンジした」という意味ではありません。

試作 → テスト → 改良 → 少量製作 → 製品化

という長い開発過程を理解するための系譜です。

Nike公式もMoon ShoeのDNAが1973年のOregon Waffleへ、さらに1975年のWaffle Trainerへ展開したことを記録しています。


40年近く土の中に眠っていたワッフルアイアン

この物語には、さらに後日談があります。

Bowermanの息子Tomがオレゴン州Coburgにあった家族の土地を改修した際、カーポート近くの古いゴミ捨て場を掘り起こしました。

そこから見つかったのが、

廃棄された試作品、型、そして錆びたワッフルアイアン。

Bowermanが実験で接着してしまい、Barbaraが捨てたものです。

現在、そのワッフルアイアンはNike本社の、

Department of Nike Archives

に保存されています。

つまり1971年の有名な逸話は、単なる企業伝説だけで終わっていません。

その開発史を物理的に示す資料そのものが残されています。


WHY IT MATTERS|なぜ、この段階を一足として残すのか

No.001 The Nikeは商品でした。

名前がある。

価格がある。

販売された。

No.002は違います。

正式商品名は確認できない。

価格もない。

一般販売されたモデルでもない。

正確な製作数も分からない。

それでもSOLEVAULTでは、独立した収蔵番号を与えます。

なぜなら、

商品になったNikeだけを残しても、Nikeがどうやって商品を生み出したのかは分からないからです。

台所でワッフルアイアンを壊した。

数分でソールが崩壊した。

ワイヤーで選手の足首を傷つけた。

それでも実験を続けた。

そして1971年11月には、初期ワッフルシューズがNCAAクロスカントリーの競技現場まで到達した。

その次にMoon Shoeがある。

完成品だけでは、この流れは見えません。


SOLEVAULT VIEW

もしSOLEVAULTが「Nike名作100選」なら、No.002は必要ありません。

正式商品ですらないからです。

しかしSOLEVAULTが残したいのは、

売れたNikeだけではありません。

失敗したNike。

試作されたNike。

名前を与えられなかったNike。

量産されなかったNike。

後の一足を生み出したNike。

それらも含めて、1971年から1989年までのNikeを保存します。

1971年11月。

まだMoon Shoeという名前が歴史に登場する前。

オレゴンのクロスカントリー選手たちの足元には、すでにワッフルがありました。

Moon Shoeより前に、ワッフルは走っていた。

そして、

完成品だけが、歴史ではない。

No.002は、そのための収蔵品です。


ARCHIVE DATA|アーカイブデータ

SOLEVAULT No.002

ARCHIVE NAME|収蔵名称: Early Waffle Prototype(アーリー・ワッフル・プロトタイプ/SOLEVAULT整理名称)
PERIOD|確認年代: 1971
CONFIRMED COMPETITION DATE|確認された競技時期: November 1971(1971年11月)
ARCHIVE SCOPE|収蔵対象: 1971年に開発され、同年11月までに競技使用されたことを確認できる初期ワッフルソール実験靴群
ROOM|分類: RUNNING(ランニング)
TYPE|用途: Experimental / Cross-Country Prototype(実験用/クロスカントリー用プロトタイプ)
STATUS|製品状態: Prototype / Experimental Development(試作品/実験開発段階)
DEVELOPER|主要開発者: Bill Bowerman(ビル・バウワーマン)
ORGANIZATION|当時の組織: Blue Ribbon Sports(ブルーリボンスポーツ/BRS)
DEVELOPMENT PURPOSE|開発目的: Lightweight Traction Without Conventional Spikes(従来型スパイクに頼らない軽量なトラクションの実現)
ORIGINAL PROBLEM|開発上の課題: Hard, Slick Urethane Track at the University of Oregon(オレゴン大学の硬く滑りやすいウレタン製トラック)
OUTSOLE CONCEPT|アウトソール技術: Early Waffle Sole(初期ワッフルソール)
INSPIRATION|着想: Waffle Iron Grid Pattern(ワッフルアイアンの格子模様)
WAFFLE IRON|使用されたワッフルアイアン: Bersted Manufacturing Company Model 251
KNOWN TESTING NETWORK|開発協力: Local Tire Shops / Machinists / Cobblers / Athletes(地域のタイヤショップ/機械加工業者/靴職人/選手)
KNOWN COMPETITION USE|確認された競技使用: 1971 NCAA Cross-Country Championship Period(1971年NCAAクロスカントリー選手権期)
KNOWN TEAM|確認されたチーム: University of Oregon Cross-Country Team(オレゴン大学クロスカントリーチーム)
RESULT|確認された結果: NCAA Title(チームがNCAAタイトルを獲得)
1972 TESTING|翌年のテスト: College Athletes / South Eugene High School Athletes(大学選手/サウスユージーン高校選手)
FORMAL PERIOD MODEL NAME|当時の正式モデル名: 未確認
MODEL NUMBER|品番: 未確認
UPPER|アッパー: 個体を特定できる一次資料不足のため未確認
OUTSOLE MATERIAL|アウトソール素材: 実験段階でウレタン/ラバー系材料の使用が確認されるが、1971年11月競技使用個体の正確な配合・仕様は未確認
COLOR|カラー: 1971年11月競技使用個体として確定できる完全な仕様は未確認
PRODUCTION QUANTITY|製作数: 未確認
COMMERCIAL RELEASE|一般販売: 確認できず
ORIGINAL PRICE|当時価格: Not Applicable / No Confirmed Retail Release(該当なし/一般販売確認なし)
KNOWN EARLY FAILURES|確認された初期実験の失敗: Prototype Disintegration / Exposed Wire Causing Ankle Cuts(試作品の崩壊/露出したワイヤーによる足首の負傷)
NEXT DEVELOPMENT|次の発展: Moon Shoe(1972)
LATER DEVELOPMENT|後の展開: Oregon Waffle(1973)→ Waffle Trainer(1975)

SOURCE STATUS|資料確認状況: CONFIRMED / ARCHIVE NAME / PARTLY DOCUMENTED(存在・競技使用確認済み/収蔵名称はSOLEVAULT整理名称/個体仕様は一部未確認)


CURRENTLY CONFIRMED|現在確認できていること

Nike Department of Nike Archivesによって、1971年のBowermanによるワッフルアイアンを使った実験、オレゴン大学のウレタントラックという開発背景、初期試作品の失敗、1971年11月のオレゴン大学クロスカントリーチームによる初期モデルの競技使用とNCAAタイトル、1972年冬〜春の追加テスト、その後のMoon Shoeへの展開を確認できます。

また、Bowermanが使用したワッフルアイアンがBersted Manufacturing Company Model 251で、1936年の結婚祝いだったこと、後年発掘され、現在Nike Department of Nike Archivesに保存されていることもNike公式資料で確認できます。


CURRENTLY UNCONFIRMED|現在確認できていないこと

現時点のSOLEVAULT調査では、1971年11月に競技使用された各個体の正式名称、品番、正確な製作数、全着用選手、各個体のアッパー素材・カラー・重量・ラバー配合・製作担当者、現存個体との完全な対応関係について確定できる資料は確認できていません。

また「Early Waffle Prototype」は当時の正式商品名ではなく、1971年の開発段階を整理するためのSOLEVAULT収蔵名称です。

したがって後世のMoon Shoe個体や1973年Oregon Waffle、1975年Waffle Trainerの仕様を、1971年競技使用個体の仕様として遡及適用しません。


PRIMARY SOURCE|主要資料

今回の中心資料はNike自身のDepartment of Nike Archivesによる2025年のMoon Shoe/Waffle開発史です。1971年の実験から1972年Moon Shoe、1973年Oregon Waffle、1975年Waffle Trainerまでの流れをNike自身が詳細に整理しています。

Nike Department of Nike Archives — From Waffle Iron to World Stage: The True Story of the Nike Moon Shoe

日本語版もあります。

Nike公式日本語版 — ナイキ ムーンシューの歴史

SOLEVAULT No.002|完全版・再収蔵完了。

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