1972|FOOTBALL
Nikeは1972年、ランニングだけを見ていたわけではない。
1972年のNikeを語ると、どうしてもランニングシューズが中心になります。
Moon Shoe。
Cortez。
そして、後にNikeを代表する技術となるワッフルソール。
しかし同じ時代、Bill BowermanとJeff Johnsonは、別の場所でも「地面」を見ていました。
人工芝です。
舞台は、オレゴン大学のAutzen Stadium。
そこでOregon Ducksのアメリカンフットボール選手たちは、新しく導入された人工芝で十分なトラクションを得ることに苦労していました。
Bowermanたちは、この問題を解決するために新しいアウトソールを考えます。
その研究の先に生まれたのが、
Astrograbber。
Nike Department of Nike Archivesは、このシューズについて1972年にプロトタイプが作られたと記録しています。
SOLEVAULT No.004が保存するのは、1974年に製品として登場したAstrograbberではありません。
その2年前。
まだ商品になる前のAstrograbberです。
問題はAutzen Stadiumにあった
Bowermanがシューズを考える出発点には、具体的な問題がありました。
その一つが、Autzen Stadiumに導入された新しい人工芝Astroturfです。
Nike公式アーカイブによれば、Oregon Ducksのフットボールチームは、この人工芝で十分なトラクションを得ることに苦労していました。
特に問題になったのが、
濡れた人工芝。
通常のクリートでは十分なグリップを得られない。
そこで選手たちは、ときにはクリートを脱ぎ、ヘリンボーンパターンのアウトソールを持つバスケットボールシューズへ履き替えていました。
その方が、濡れた人工芝を捉えることができたからです。
つまり、
アメリカンフットボールをするために、バスケットボールシューズを履く。
既存のフットボールシューズが、新しい競技環境に十分対応できていなかったことを意味します。
Bowermanたちは、その問題を見逃しませんでした。
「競技」だけではなく「路面」から靴を考える
ここがAstrograbber Prototypeを残す大きな理由です。
Bill BowermanとJeff Johnsonは、アメリカンフットボールと陸上競技の双方について、より良いトラクションを得る方法を研究しました。
彼らが見ていたのは、
「これはランニングシューズか」
「これはフットボールシューズか」
というカテゴリーだけではありません。
選手が、どんな地面の上を走るのか。
そこから靴を考えていました。
硬いトラック。
濡れた人工芝。
舗装路。
路面が違えば、必要なトラクションも違う。
Nike Department of Nike Archivesは、この一連の研究がAstrograbberへつながったと記録しています。
同じ時代に進んでいた、もう一つのトラクション研究
これはNo.002 Early Waffle Prototype、No.003 Moon Shoeと並べると、さらに意味が見えてきます。
ランニング/陸上競技では、Bowermanたちは従来のスパイクとは異なる方法で地面を捉えようとしていました。
そこからワッフルソールの実験が進みます。
1971|Early Waffle Prototype
1972|Moon Shoe
その一方、Autzen Stadiumでは人工芝という別の問題が起きていました。
1972|Astrograbber Prototype
Moon ShoeとAstrograbber Prototypeは、同じシューズでも、単純な前後関係でもありません。
一方はランニング/陸上競技。
もう一方はアメリカンフットボール/人工芝。
競技も使用環境も違います。
しかし1972年のNikeが、複数の競技で**「選手と地面の接点」**を研究していたことは共通しています。
だからSOLEVAULTでは、両者を「兄弟」と単純化せず、
同時期に異なる路面問題へ取り組んだ並行開発
として記録します。
1972年、Astrograbber Prototype
ここで年代を明確にします。
Nike Department of Nike Archivesは、Astrograbberについて、1972年にプロトタイプが作られたシューズと記録しています。
一方、Nikeが後年公開したAstrograbberの公式資料では、オリジナルモデルのデビューを1974年としています。
したがって、
1972|Astrograbber Prototype
↓
1974|Astrograbber Production Model
です。
SOLEVAULTでは、この二つを混ぜません。
No.004として収蔵するのは、
1972年のAstrograbber Prototype。
1974年の市販Astrograbberは、1974年まで調査が進んだ段階で別のSOLEVAULT収蔵番号を与えます。
二重掲載ではありません。
PrototypeとProduction Modelを別々の歴史資料として保存するためです。
「Astrograbber Prototype」は何を指すのか
ここにも注意が必要です。
Nike公式資料から確認できるのは、Astrograbberというシューズが1972年にprototypeされたという事実です。
しかし、現在確認できるNike一次資料だけでは、1972年の試作個体についてすべてが分かっているわけではありません。
正確に何足作られたのか。
何種類の試作品が存在したのか。
正式な品番が存在したのか。
どの素材が使われたのか。
誰が実際に履いたのか。
どの試合で使用されたのか。
そこまでは確定できません。
だからSOLEVAULTでは、分からない部分を1974年の製品版から逆算して埋めません。
確認できるところまでを、確認できる形で保存する。
それがNo.004です。
1974年版や現代復刻版から、1972年を作ってはいけない
Astrograbberを調べると、1974年の製品版や現代の復刻版については、1972年プロトタイプより多くの情報が見つかります。
しかし、ここで資料を混ぜると歴史が変わってしまいます。
1972 Prototype ≠ 1974 Production Model ≠ Modern Reissue
です。
Nikeは後年のAstrograbberを、人工芝に対応する初期のターフシューズとして紹介し、その系譜をワッフルソールと結びつけています。
しかし、それだけで1972年試作個体の素材、ワッフルパターン、構造、重量、カラーまで確定したことにはなりません。
まして、現代復刻版の素材や構造を1972年へ遡及することはできません。
分からないものは、分からないまま残す。
それもアーカイブです。
ワッフルソールだった、とどこまで言えるのか
Astrograbberの歴史は、Nikeのワッフル技術と強く結びついています。
Nikeは後年のAstrograbberを、人工芝に対応するためのワッフルソールを備えた初期ターフシューズとして紹介しています。
しかし、1972年プロトタイプについて現在確認できるNike資料は、その存在と開発背景を明確にする一方、1972年の試作個体そのもののアウトソール仕様を完全には示していません。
したがってSOLEVAULTでは、
Astrograbberの系譜はワッフル技術と結びついている。
ここまでは記録します。
しかし、
1972年の全プロトタイプが1974年製品版と同一のワッフルパターン、素材、構造だった。
とは断定しません。
この違いを残すことが、SOLEVAULTでは重要です。
1974年、試作は製品になる
1972年の研究は、そのまま消えませんでした。
Nike公式資料によれば、Astrograbberは1974年に製品としてデビューします。
目的は明確でした。
人工芝のフットボールフィールドをつかむこと。
1972年にAutzen Stadiumで見えていた問題が、少なくとも1974年には一つの製品として形になったことになります。
SOLEVAULTが1974年へ到達したとき、この製品版Astrograbberを改めて収蔵します。
そこで初めて、
Prototype → Production Model
を二つの収蔵品として並べることができます。
WHY IT MATTERS|なぜ、この試作品を残すのか
Astrograbber Prototypeは、一般的な「Nike名作100選」なら外れるかもしれません。
市販モデルですらない。
詳細な仕様も、まだ十分には分からない。
1972年ならCortezを載せた方が分かりやすい。
Moon Shoeを載せればNike好きにも伝わります。
しかし、それだけでは1972年のNikeを保存したことにはなりません。
同じ年。
Autzen Stadiumでは、アメリカンフットボール選手たちが人工芝に苦戦していました。
雨が降れば、バスケットボールシューズへ履き替えることさえあった。
BowermanとJohnsonは、その問題を見た。
そして、靴を考えた。
Astrograbber Prototypeは、Nikeが複数のスポーツへ問題解決の範囲を広げ始めていたことを示す一足です。
SOLEVAULT VIEW
No.001から並べると、初期Nikeの姿が少しずつ見えてきます。
No.001|The Nike
最初の商品とSwoosh。
No.002|Early Waffle Prototype
ランニングにおける初期ワッフル実験。
No.003|Moon Shoe
ワッフル技術が小ロットの実験靴として形になった段階。
そして、
No.004|Astrograbber Prototype
人工芝という別の路面問題へ向かった試作。
Nikeの歴史は、有名モデルが順番に発売されただけではありません。
競技を見る。
選手を見る。
そして、
選手の足元にある「地面」を見る。
問題がある。
既存のシューズでは足りない。
ならば試す。
1972年のAstrograbber Prototypeは、その姿勢を示す小さな証拠です。
詳細資料が少ないから外すのではありません。
むしろ、そういう一足こそ残す。
有名だから載せるのではない。
存在したから、記録する。
ARCHIVE DATA|アーカイブデータ
SOLEVAULT No.004
ARCHIVE NAME|収蔵名称: Astrograbber Prototype(アストログラバー・プロトタイプ)
YEAR|年代: 1972
ROOM|分類: FOOTBALL(フットボール)
TYPE|用途: American Football / Turf Prototype(アメリカンフットボール/人工芝用プロトタイプ)
STATUS|製品状態: Prototype(試作品)
DEVELOPMENT|開発: Bill Bowerman / Jeff Johnson / Early Nike Team(ビル・バウワーマン/ジェフ・ジョンソン/初期Nikeチーム)
ORGANIZATION|当時の組織: Blue Ribbon Sports / Early Nike(ブルーリボンスポーツ/初期Nike)
DEVELOPMENT PURPOSE|開発目的: Artificial-Turf Traction(人工芝でのトラクション向上)
BACKGROUND|開発背景: Oregon Ducks Football Traction Problems(オレゴン・ダックスのフットボールチームが抱えていたトラクション問題)
LOCATION|関連場所: Autzen Stadium, Eugene, Oregon(オーツェン・スタジアム/オレゴン州ユージーン)
SURFACE|対象路面: Astroturf / Artificial Turf(アストロターフ/人工芝)
KNOWN WET-WEATHER RESPONSE|確認された雨天時の対応: Players Sometimes Switched from Cleats to Basketball Shoes with Herringbone Outsoles(選手がクリートからヘリンボーンアウトソールのバスケットボールシューズへ履き替える場合があった)
OUTSOLE DEVELOPMENT|アウトソール開発: Astrograbberの系譜はNike公式資料でWaffle Soleと関連づけられているが、1972年試作個体の完全仕様は未確認
UPPER|アッパー: 未確認
OUTSOLE MATERIAL|アウトソール素材: 1972年試作個体について詳細未確認
COLOR|カラー: 未確認
MODEL NUMBER|品番: 未確認
PRODUCTION QUANTITY|製作数: 未確認
KNOWN WEARERS|確認済み着用者: 個人名未確認
KNOWN COMPETITION USE|具体的競技使用: 未確認
SURVIVING PROTOTYPE|現存試作個体: 今回確認した資料では未確認
COMMERCIAL RELEASE|1972年一般販売: No / Prototype Stage(なし/試作段階)
PRODUCTION MODEL|製品化モデル: Astrograbber(1974)
PRODUCTION MODEL TYPE|製品版用途: Turf / American Football(人工芝/アメリカンフットボール)
MODERN REISSUE|現代復刻: Bode Rec. × Nike Astrograbberほか
REISSUE NOTE|復刻注記: 現代復刻版の素材・構造を1972年プロトタイプへ遡及適用しない
SOURCE STATUS|資料確認状況: CONFIRMED / LIMITED DOCUMENTATION(1972年プロトタイプの存在・開発背景はNike公式確認済み/個体仕様は資料限定)
CURRENTLY CONFIRMED|現在確認できていること
Nike Department of Nike Archivesによって、Autzen Stadiumの人工芝でOregon Ducksがトラクションに苦しみ、濡れた状況ではヘリンボーンアウトソールのバスケットボールシューズへ履き替える場合があったことが確認できます。
また、Bill BowermanとJeff Johnsonがフットボールと陸上競技双方のトラクションを研究し、その研究が1972年にプロトタイプ化されたAstrograbberへつながったことをNike公式資料で確認できます。
さらに別のNike公式資料から、製品版Astrograbberが1974年にデビューしたこと、人工芝に対応するNike初期のターフシューズの一つであり、後の製品系譜がWaffle Soleと結びついていることを確認できます。
CURRENTLY UNCONFIRMED|現在確認できていないこと
現時点のSOLEVAULT調査では、1972年Astrograbber Prototypeについて、
正式品番、正確な製作数、全バリエーション、アッパー素材、アウトソールの正確な素材とパターン、重量、カラー、製作者、個人単位の着用者、具体的な試合使用記録、現存する1972年試作個体
までは一次資料で確定できていません。
したがって、1974年製品版および現代復刻版の仕様を1972年試作品へ遡及適用しません。
PRIMARY SOURCES|主要資料
1972年プロトタイプの存在と開発背景については、Nike Department of Nike ArchivesによるMoon Shoe/Waffle開発史を主要資料とします。
1974年製品版の登場年とAstrograbberの位置づけについては、Nike公式のAstrograbber/Bode Rec.関連資料で照合します。
SOLEVAULT No.004|再収蔵完了。
コメント