1972 / RUNNING
INTRODUCTION
1972年、Nike Cortezが登場した。
現在ではNike最古級のアイコンとして知られ、何度も復刻され、ファッションとしても定着している。
しかし、1972年のCortezを見るなら、その後の名声はいったん忘れた方がいい。
当時のBlue Ribbon Sports / Nikeカタログを開くと、そこにあるのは完成された「名作」ではない。
長距離を走るために、
厚いアウトソール
フルレングスのスポンジミッドソール
高くされたヒール
アーチサポート
SPENCOインソール
を組み合わせた、極めて具体的なランニングシューズである。
さらに重要なのは、1972年のCortezが一種類ではなかったことだ。
今回確認したBRS/Nikeカタログには、
Cortez
Super Cortez
Nylon Cortez
Leather Cortez
Leather Cortez I
Nylon Cortez I
Leather Cortez II
Nylon Cortez II
Suede Cortez Deluxe
まで、Cortez Familyの複数の商品名・仕様が記録されている。
SOLEVAULTでは、それらを「Cortez」という一足に押し込まない。
No.011では、その中心にあるNike Cortezを記録する。
Cortezの始まりは1972年ではない
Nike Cortezという商品が登場する以前から、このシューズの設計思想は存在していた。
Nike公式のBill Bowermanに関するアーカイブによれば、その重要な起点は1965年まで遡る。
当時オレゴン大学のランナーだったKenny Mooreが足を負傷した。
Bowermanは彼が履いていたシューズを調べ、クッション構造に問題があると考えた。
1965年6月、Bowermanはシューズメーカーへ具体的な改良案を送っている。
そこには、
クッション性のあるインソール、
前足部とヒール上部の柔らかなスポンジ、
ヒール中央部のより硬いスポンジ、
その下の硬いラバーアウトソール、
という考え方が含まれていた。
つまり、後のCortezにつながる重要な発想は、
一種類の硬さで足を支えるのではなく、異なる役割を持つ素材を重ねる
ところから始まっていた。
Tiger CortezからNike Cortezへ
Bowermanの試作は改良され、1967年にはOnitsuka TigerのカタログにTiger Cortezが登場する。
ここはNike Cortez史で避けてはいけない部分である。
Cortezは1972年に突然ゼロから発明されたNikeシューズではない。
Blue Ribbon SportsがOnitsuka Tigerを扱っていた時代から続く開発の歴史を持っている。
その後、BRSが自社ブランドNikeへ移行する過程で、その基本的なシルエットと設計思想がNike側へ引き継がれた。
そして1972年、
Nike Cortez
として市場へ登場する。
だからSOLEVAULTでは、
Nike Cortez:1972
と記録しながら、
DESIGN LINEAGE|設計系譜:1965 → Tiger Cortez 1967 → Nike Cortez 1972
を別に残す。
「誕生年」と「設計の起点」を混同しない。
1972年BRS/NikeカタログのCortez
今回確認した1972年カタログでは、BRS自身がCortezについて、その設計が1960年代半ばにBill Bowermanによって始まったことを説明している。
さらに基本的なCortez構造として、
thick long-wearing outer sole
full-length sponge midsole
elevated heel
という組み合わせを記録している。
これが重要である。
現在の復刻Cortezを見て1972年を説明する必要がない。
1972年のBRS自身が、1972年のCortezをどう説明していたかが残っている。
SOLEVAULTではこちらを基準にする。
Full-Length Sponge Midsole
Cortezを理解する中心の一つが、フルレングスのスポンジミッドソールである。
Nike公式資料でも、Bowermanが初期の試作を重ねる中で、局所的なクッションパッドからfull-length midsoleへ発展したことが記録されている。
1972年カタログでも、このフルレングスのスポンジミッドソールがCortezの基本構造として説明されている。
つまりCortezの価値は、単に「底が厚かった」ことではない。
アウトソールと足の間にクッション層を持たせ、それを足裏全体へ伸ばす。
この考え方そのものが重要だった。
Elevated Heel
Cortezにはelevated heelも採用されていた。
ヒール側を高くする構造は、同時期のOboriにも見られる。
Bowermanと初期Nikeが、長距離走におけるヒール周辺の衝撃や足への負担を強く意識していたことが、1972年の商品群から見えてくる。
ただし、当時資料に記載された障害予防などの効果を、そのまま現代医学上の事実として断定しない。
SOLEVAULTが保存するのは、
Bowerman/BRS/Nikeが、何を目的としてその構造を採用したか
である。
Cortez Sole
1972年カタログのTechnical Informationには、Cortez soleの図解も掲載されている。
これはSOLEVAULTにとって非常に価値が高い。
後世の現存個体だけでなく、当時BRS自身がCortezのソールを技術説明の対象として扱っていたことになる。
そして同じTechnical Informationには、
Obori Sole
Cortez Sole
Moon Shoe Sole
Volleyball Shoe Sole
などが並んでいる。
1972年のNikeがすでに「モデルごとに異なるソールを設計する会社」だったことが分かる。
SPENCO Innersole
1972年CortezにはSPENCO innersoleも確認できる。
SPENCOは今回のカタログを読み進めると、Cortezだけに現れる名前ではない。
Obori、Marathon、Blazer、Road Runner Suedeなど、複数カテゴリーの商品に登場する。
つまり1972年Nikeのシューズ設計では、アウトソールやアッパーだけでなく、足に直接接触するインソールも商品性能を構成する要素として扱われていた。
Cortezもその一つである。
Arch Support
カタログではCortezにarch supportsが記録されている。
さらにCortez Familyを細かく見ると、モデルによってラスト、トウ形状、ヒールプラグ、インソールなどに違いが出てくる。
ここが非常に面白い。
「LeatherかNylonか」という単純な素材違いだけではない。
BRSはCortezという基本設計を使いながら、内部構造や足型まで変えて商品を展開していた。
だからSOLEVAULTではCortez Familyを分離する。
Three Upper Styles
1972年BRSカタログの基本Cortez説明では、3種類のupper stylesから選択できるという趣旨の記載がある。
ここは慎重に扱う必要がある。
これは「Cortezという商品が3色あった」という意味とは限らない。
実際、同じカタログにはLeather Cortez、Nylon Cortez、さらにI / IIやDeluxeなど、複数の具体的商品が存在する。
したがってNo.011では、
Cortez Familyには複数のアッパー仕様が用意されていた
ところまでを確定し、個別仕様はそれぞれのアクセッションで保存する。
Extra-Wide Toe
基本Cortezについてカタログでは、extra-wide toeも特徴として挙げられている。
この情報は後のCortez I / IIを理解するとさらに重要になる。
たとえばLeather Cortez Iはflat lastと広いtoe roomを持つ。
一方Leather Cortez IIではcurved lastとnarrow tapered toeが記録されている。
つまり「Cortezの形」は固定されていなかった。
初期Nikeは同じCortez Familyの中でも、足型そのものを変化させていた。
No.011は、そのファミリー全体を理解する基準点でもある。
Bowerman Patent
Nike公式資料では、Bowermanがcontinuously cushioned midsoleに関する特許を取得したことも記録されている。
これはCortezの歴史を単なるデザイン史ではなく、技術開発史として見るために重要である。
ただし、特許番号、出願日、成立日、具体的クレームについては、SOLEVAULTでは特許原文を確認してからARCHIVE DATAへ固定した方がいい。
「Bowerman patent」とだけ有名な話を繰り返すのではなく、将来的には特許そのものを一次資料として収蔵資料に加えるべき項目である。
1973年には「最も人気のある長距離トレーニングシューズ」へ
Nike公式アーカイブによれば、1973年7月のRunner’s WorldはNike Cortezを、アメリカで非常に人気の高い長距離トレーニングシューズとして紹介している。
1972年にNikeブランドとして登場してから、非常に短期間で存在感を高めたことが分かる。
ただし、これは1972年の商品仕様とは別の話である。
No.011では、
1972=Nike Cortez登場
1973=市場での評価・普及を示す資料
として時系列を分けて扱う。
Nike Cortezは「一足」では終わらない
ここがSOLEVAULTで最も重要なところである。
一般的なNike史なら、
Cortez — 1972
これだけでも成立する。
SOLEVAULTでは成立しない。
今回の1972年カタログを見れば、Cortezという名前の周囲に多数の商品が存在していたことが分かる。
Super Cortez。
Nylon Cortez。
Leather Cortez。
Leather Cortez I。
Nylon Cortez I。
Leather Cortez II。
Nylon Cortez II。
Suede Cortez Deluxe。
それぞれを調べれば、素材だけではなく、ソール、ラスト、トウ、ヒール構造にも違いが出てくる。
だから一足ずつ残す。
「Cortezを載せた」ではなく、「1972年のCortez Familyを復元する」。
これがSOLEVAULTの仕事になる。
WHY IT MATTERS|なぜ重要なのか
Nike Cortezが重要なのは、現在も売られているからだけではない。
その中には、Nike以前のBowermanによる1965年の試行錯誤、Tiger Cortez、BRSからNikeへの転換、クッション構造の研究、そして1972年のNike商品体系が重なっている。
Cortezを見ることは、
Nikeというブランドが誕生する前から続いていたシューズ開発が、Nikeの商品へ変わっていく過程を見ること
でもある。
だから1972年のCortezを、現在の復刻モデルから逆算してはいけない。
1972年の資料から1972年のCortezを復元する。
SOLEVAULT VIEW
Cortezは有名すぎる。
だから危険である。
有名なモデルほど、同じ話が何十年も繰り返される。
1960年代。
Bowerman。
Onitsuka。
1972年。
Nike。
そして現在。
それだけでCortezの歴史を知った気になれる。
しかし1972年のカタログを開けば、その間に大量の情報がある。
Leather。
Nylon。
I。
II。
Deluxe。
Flat Last。
Curved Last。
Wide Toe。
Tapered Toe。
Heel Plug。
SPENCO。
そこまで掘って初めて、1972年のCortezが見えてくる。
有名な一足ほど、雑に扱わない。
それがSOLEVAULTのCortezである。
ARCHIVE DATA|アーカイブデータ
MODEL|モデル名: Nike Cortez/ナイキ コルテッツ
PERIOD DESIGNATION|当時の商品表記: CORTEZ
YEAR|登場年: 1972
DESIGN ORIGIN|設計起点: 1965年のBill Bowermanによる長距離用シューズ改良研究まで遡る
PRE-NIKE LINEAGE|Nike以前の系譜: Tiger Cortez/1967
ROOM|分類: RUNNING/ランニング
TYPE|用途: Long-Distance Training / Running Shoe/長距離トレーニング・ランニングシューズ
OUTSOLE|アウトソール: Thick Long-Wearing Outer Sole/厚手の耐摩耗性アウトソール
MIDSOLE|ミッドソール: Full-Length Sponge Midsole/フルレングス・スポンジミッドソール
HEEL|ヒール: Elevated Heel/高く設定されたヒール
INSOLE|インソール: SPENCO Innersole/SPENCOインソール
ARCH SUPPORT|アーチ支持: Arch Supports/アーチサポート
TOE|トウ: Extra-Wide Toe/幅広のトウ
UPPER OPTIONS|アッパー展開: 1972年BRSカタログで複数仕様を確認
RELATED 1972 CORTEZ MODELS|1972年関連モデル: Super Cortez, Nylon Cortez, Leather Cortez, Leather Cortez I, Nylon Cortez I, Leather Cortez II, Nylon Cortez II, Suede Cortez Deluxe
DESIGNER / DEVELOPER|開発者: Bill Bowerman
MODEL NUMBER|品番: 基本Cortezとしては未確認
COUNTRY OF MANUFACTURE|製造国: 1972年仕様の製造範囲を追加確認中
FACTORY|製造工場: 未確認
ORIGINAL PRICE|当時価格: 未確認
PRODUCTION QUANTITY|生産数: 未確認
SOURCE STATUS|資料確認状況: CONFIRMED / DOCUMENTED
IMAGE STATUS|画像資料: 1972 BRS/Nikeカタログ、Nike公式アーカイブ等で確認
CURRENTLY CONFIRMED|現在確認できていること
Nike公式資料はNike Cortezが1972年に正式投入されたことを記録している。
Bowermanによる設計研究は1965年まで遡り、1967年にはTiger Cortezが存在した。
1972年BRS/NikeカタログではCortezの基本構造として、厚いアウトソール、フルレングスのスポンジミッドソール、高くされたヒール、SPENCO、アーチサポートなどを確認できる。
また、同カタログによって1972年のCortezが単一仕様ではなく、複数の独立名称・仕様へ展開されていたことが確認できる。
CURRENTLY UNCONFIRMED|現在未確認のこと
No.011「Cortez」そのものの正確な品番、初期販売価格、全製造国・工場、生産数量は未確認。
また、1972年カタログにおける基本見出しCORTEZが独立販売SKUそのものを指すのか、それともCortez Family全体の総称的説明を兼ねているのかは、注文書・価格表・品番資料との照合が必要である。
ここは非常に重要なので、無理に独立SKUだったと断定しない。
SOURCES|資料
Blue Ribbon Sports / Nike Product Catalog, 1972 — CORTEZ / Technical Information
Cortezの基本構造、設計背景、複数仕様、Cortez soleなどを確認。
Nike Department of Archives — Bill Bowerman: Nike’s Original Innovator
1965年のKenny Mooreを起点とする開発、Tiger Cortezへの展開、full-length midsole、Bowermanの特許等を確認。
Nike Japan Archive — Cortez history
Nike Cortezの1972年正式投入と初期クッション構造に関する公式資料。
011はこれでかなり強いです。
そして最後の「未確認」が特に大事です。今回カタログを丸ごと見られたからこそ、No.011の“CORTEZ”が本当に独立した一商品なのか、Cortezシリーズの親見出しなのかまで疑えるようになった。
ここは資料庫として非常にいい状態です。分からないところを無理に埋めず、そのまま研究課題として残す。
次のNo.012 Super Cortezからは、いよいよ各Cortezを一足ずつ解剖できます。
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