1972|RUNNING
INTRODUCTION
1972年の初期Nikeには、現在ほとんど名前を聞かない一足が存在した。
Nike Bangkok。
同年のBlue Ribbon Sports / Nike広告「A BRAND NEW LINE」では、Nikeの新しい商品ラインを構成する一足として明確に、
BANGKOK
の名前が掲載されている。
その仕様も残っている。
ダークブルーのreverse leather upper。
足裏全体へクッションを与えるfull-length sponge midsole。
そしてsoft cordocrep outer sole。
用途はroad racingまたはtraining。
これだけでもBangkokが実在した独立商品だったことは明らかである。
問題は、その後だ。
後年の資料ではBangkokとRoad Runnerの関係について複数の説明が見られる。そして今回確認した1972年BRS/Nikeカタログには、さらにROAD RUNNER SUEDEという独立した名称まで登場する。
BangkokはRoad Runnerだったのか。
Road Runner Suedeだったのか。
途中で名称が変更されたのか。
それとも別の商品だったのか。
SOLEVAULTでは、分からないものを一つにまとめない。
まず1972年に存在したNike Bangkokを、一足として保存する。
1972年「A BRAND NEW LINE」
Bangkokの存在を確認するうえで重要なのが、1972年のBRS/Nike広告、
“Born in the Track & Field Capital of the World — A BRAND NEW LINE”
である。
この広告では6モデルが番号付きで紹介されている。
Super Cortez
Nylon Cortez
Nylon Marathon
Flyte-Regular
Flyte-Wet
Bangkok
BangkokはそのNo.6として掲載されている。
ここで注意したいのは、この「6モデル」をNike史上最初の6足と解釈しないことである。
これは、この広告でBRSが紹介した**“A BRAND NEW LINE”の6モデル**であって、Nike創業以来の全商品を意味するものではない。
それでもBangkokにとっては非常に重要な資料だ。
後世のコレクターによる呼称ではなく、1972年当時のBRS自身がBANGKOKという商品名を使用していたことを証明するからである。
Dark Blue Reverse Leather Upper
1972年広告で最初に確認できる特徴が、
“dark blue reverse leather upper”
である。
Reverse leatherとは、革の裏面側を表に使用する仕上げを指す。
外観としてはスエード系の質感を持つことになる。
このため後年、Bangkokを「Suede Road Runner」と関連づける説明が生まれた可能性も考えられる。
しかし、
素材が似ている=同じ商品
ではない。
SOLEVAULTでは、1972年広告に書かれた事実として、
Dark Blue Reverse Leather
をBangkokのアッパー仕様として保存する。
Full-Length Sponge Midsole
Bangkokでもう一つ重要なのがミッドソールである。
広告では、
“full length sponge midsole providing cushion under entire foot”
という趣旨で説明されている。
つまり踵や前足部だけにクッション材を配置するのではなく、足裏全体にわたるスポンジミッドソールを採用していた。
同じ1972年のNikeでもソール構造は一様ではない。
Oboriにはsuction-cup outsole、sponge midsole、heel wedgeという特徴がある。
Marathonには軽量レーシングフラットとしてのcordocrep系ソールがある。
Bangkokではfull-length sponge midsoleが明確に商品特徴として打ち出されている。
初期Nikeがモデルごとに異なる構成を試していたことが分かる。
Soft Cordocrep Outer Sole
アウトソールについて広告は、
soft cordocrep outer sole
と記録している。
BRSはこれについて高いtractionを得られるという趣旨で宣伝していた。
ただし、それは1972年当時のメーカーによる性能訴求である。
SOLEVAULTでは、
OUTSOLE|Soft Cordocrep Outer Sole
と構造を記録し、
“great traction”
についてはPERIOD PERFORMANCE CLAIMとして分離する。
実際の性能を現代の基準から保証するものではない。
Road Racing or Training
Bangkokの用途も広告に明記されている。
“Good for road racing or training.”
つまりBangkokは、少なくともこの時点では、
Road Racing
Training
を対象としたランニングシューズだった。
現在の見た目だけからライフスタイルシューズなどと分類してはいけない。
1972年のBRSが何のために売っていたかを優先する。
SOLEVAULTではROOMをRUNNINGとする。
BangkokとRoad Runner
ここからがNo.010最大の研究課題になる。
後年の初期Nike研究やコレクター資料では、BangkokとRoad Runnerを関連づける説明が存在する。
その中には、
BangkokはRoad Runnerのスエード仕様だった
という説明や、
Bangkokという名称からRoad Runnerへ変更された
という説もある。
さらに、Onitsuka TigerにもBangkokという名称のシューズが存在したため、それがNike側の名称変更に関係したという説も見られる。
しかし、これらをそのまま確定史として採用することはできない。
なぜなら今回、非常に重要な一次資料側の情報が加わったからである。
1972年カタログに「ROAD RUNNER SUEDE」が存在する
今回確認した1972年BRS/Nikeカタログには、
ROAD RUNNER SUEDE
という商品名が明確に掲載されている。
そこでは、calf suede upperとcordo-rubber competition soleを組み合わせたレーシング/トレーニング用フラットとして説明されている。
さらに、
shock-absorbing midsole pads at ball and heel
SPENCO innersole
polyfoam tongue
arch bandage
などが記録されている。
これはBangkokの1972年広告にある、
dark blue reverse leather upper
full-length sponge midsole
soft cordocrep outer sole
という説明と、似ている部分もあれば、明確に記述が異なる部分もある。
特に注目すべきなのがミッドソールである。
Bangkokは、
full-length sponge midsole
Road Runner Suedeは、
ball and heelのshock-absorbing midsole pads
として記述されている。
この違いを無視して、
Bangkok=Road Runner Suede
と断定することはできない。
同じ靴なのか、別の靴なのか
現段階では三つの可能性を残す。
① BangkokとRoad Runner Suedeは別モデルだった。
② Bangkokが改良・仕様変更され、Road Runner Suedeになった。
③ 基本モデルは近いが、時期や市場によって名称・仕様表記が変化した。
どれが正しいかは、さらに当時の商品番号、価格表、注文書、カタログの版違い、現存個体を比較する必要がある。
重要なのは、答えが出ていない段階で一つにしてしまわないことである。
Onitsuka Tiger Bangkokとの問題
Bangkokという名前については、もう一つ避けて通れない問題がある。
Onitsuka Tiger Bangkokである。
Blue Ribbon SportsはもともとOnitsuka Tigerのアメリカ販売と深く関わっていた。
そのため、Nike Bangkokという名称がOnitsuka側の商品名と衝突し、後に変更されたという説が存在する。
歴史的な流れとしては十分あり得る。
しかし、
「OnitsukaにBangkokがあった」
ことと、
「それが理由でNike BangkokがRoad Runnerへ改名された」
ことは別の事実である。
前者を確認できても、後者には名称変更を直接示す資料が必要になる。
したがって現段階では、
REPORTED / UNVERIFIED
として保存する。
Bangkokは消してはいけない
もし将来、
Bangkok=Road Runner
だったことが完全に証明されたとしても、No.010を消す必要はない。
1972年のBRS広告には、
BANGKOK
という名前で商品が存在しているからである。
SOLEVAULTが保存するのは、現在まで残った商品名だけではない。
一時期だけ使われた名称。
短命だった仕様。
途中で変更されたモデル。
そうしたNikeの過程そのものを残す。
Bangkokはその典型になり得る。
WHY IT MATTERS|なぜ重要なのか
Nike Bangkokの重要性は、大ヒットしたことではない。
むしろ、現在ほとんど忘れられていることにある。
1972年のNikeは完成したブランドではなかった。
商品名も、素材も、ソールも、市場での位置づけも試行錯誤していた。
その過程で、
dark blue reverse leather
full-length sponge midsole
soft cordocrep outsole
を備えたロードレーシング/トレーニングシューズが、Bangkokという名前で売られていた。
そしてその周囲にはRoad Runner、Road Runner Suede、Onitsuka Tiger Bangkokという複雑な歴史が存在する。
この曖昧さまで含めて保存することに価値がある。
SOLEVAULT VIEW
有名なモデルだけを並べれば、Nikeの歴史はきれいに見える。
Cortez。
Blazer。
Waffle。
しかし、Bangkokを入れると歴史は少し複雑になる。
なぜBangkokという名前だったのか。
なぜ消えたのか。
Road Runnerとは何だったのか。
同じ靴なのか。
違う靴なのか。
その答えがまだ完全には出ていない。
だから面白い。
資料庫は、分かっていることだけを並べる場所ではない。
どこまで分かっていて、どこから分からないのかまで残す場所である。
Nike Bangkokは、その原則を象徴する一足になる。
ARCHIVE DATA|アーカイブデータ
MODEL|モデル名: Nike Bangkok/ナイキ バンコック
PERIOD DESIGNATION|当時の商品表記: BANGKOK
YEAR|登場年: 1972
ROOM|分類: RUNNING/ランニング
TYPE|用途: Road Racing / Training Shoe/ロードレーシング・トレーニング用シューズ
UPPER|アッパー: Dark Blue Reverse Leather/ダークブルー・リバースレザー
MIDSOLE|ミッドソール: Full-Length Sponge Midsole/フルレングス・スポンジミッドソール
OUTSOLE|アウトソール: Soft Cordocrep Outer Sole/ソフト・コードクレープ・アウトソール
PERIOD PERFORMANCE CLAIM|当時の性能訴求: “great traction” — BRS広告表現
CONFIRMED USE|確認できる用途: Road Racing / Training
RELATED MODEL|関連モデル: Nike Road Runner / Road Runner Suede
NAME RELATION|名称関係: Bangkok→Road Runnerへの改名説あり。現時点では未確定
ONITSUKA RELATION|オニツカとの関係: Onitsuka Tiger Bangkokとの名称衝突が改名理由だったとする説あり。直接資料未確認
MODEL NUMBER|品番: 未確認
COUNTRY OF MANUFACTURE|製造国: 未確認
FACTORY|製造工場: 未確認
ORIGINAL COLOR|当時カラー: Dark Blue/ダークブルーを1972年広告で確認
ORIGINAL PRICE|当時価格: 未確認
PRODUCTION QUANTITY|生産数: 未確認
SOURCE STATUS|資料確認状況: Bangkokの存在・基本仕様=DOCUMENTED / Road Runnerとの関係=UNVERIFIED
IMAGE STATUS|画像資料: 1972年BRS/Nike広告で確認
CURRENTLY CONFIRMED|現在確認できていること
1972年BRS/Nike「A BRAND NEW LINE」広告にBANGKOKが独立商品として掲載されている。
同広告から、dark blue reverse leather upper、full-length sponge midsole、soft cordocrep outer soleを備え、road racingまたはtraining用として販売されていたことを確認できる。
また今回確認した1972年BRS/Nikeカタログには、ROAD RUNNER SUEDEが独立名称で掲載されている。
CURRENTLY UNCONFIRMED|現在未確認のこと
BangkokとRoad Runner、Road Runner Suedeの正確な商品上の関係は未確定。
特に、
BangkokからRoad Runnerへ正式に改名されたのか
Road Runner SuedeとBangkokが同一仕様だったのか
商品番号が共通または変更されたのか
Onitsuka Tiger Bangkokとの名称問題が改名の直接原因だったのか
については、一次資料による追加確認が必要である。
Bangkokの当時価格、品番、製造国・工場、総生産数も未確認。
SOURCES|資料
Blue Ribbon Sports / Nike — “A BRAND NEW LINE”, 1972
BANGKOKの商品名、dark blue reverse leather upper、full-length sponge midsole、soft cordocrep outer sole、road racing / training用途を確認。
Blue Ribbon Sports / Nike Product Catalog, 1972 — ROAD RUNNER SUEDE
SOLEVAULT確認資料。Road Runner Suedeが独立名称で掲載され、calf suede upper、cordo-rubber competition sole、ball / heel midsole pads、SPENCO innersole等を備えることを確認。
Early Nike / Onitsuka period documentation
Bangkok、Road RunnerおよびOnitsuka Tiger Bangkokの名称関係について継続調査。
010はこれでかなり良くなります。
そして今回のカタログによって、以前より一歩進みました。「Bangkok=Road Runner」と書いて片付けないこと自体が重要な成果です。
次の011からはいよいよCortezですが、011〜019は今回のカタログで全部もう一度監査する価値があります。 特にLeather I / Nylon I / Leather II / Nylon IIを当時BRS自身が分けて掲載しているので、ここはSOLEVAULTの強いところになります。
INTRODUCTION
1972年のNikeを一足ずつ掘っていく。
Obori。
Marathon。
Flyte。
そして次に現れるのが、
Bangkok。
現在のNikeで「Bangkok」という名前を聞いて、このシューズを思い浮かべる人はほとんどいないだろう。
しかし1972年当時のNike広告には、その名前がはっきり残っている。
しかも写真だけではない。
BANGKOK
という商品名とともに、アッパー、ミッドソール、アウトソール、用途まで記録されている。
さらに後年の資料を追うと、Bangkokのすぐ隣に、
Road Runner
という別の名前が現れる。
この二足は何だったのか。
同じ靴だったのか。
素材違いだったのか。
それともBangkokからRoad Runnerへ名前が変わったのか。
資料によって説明は一致していない。
だからSOLEVAULT No.010では、後から作られた物語を先に置かない。
まず、
1972年にNike Bangkokという一足が存在した。
そこから記録する。
1972年、Nike自身の広告に「BANGKOK」がある
Bangkokの存在を確認する強い資料が、初期Nike広告、
“Born in the Track & Field Capital of the World — A BRAND NEW LINE”
である。
この広告には6足が番号付きで掲載されている。
1. SUPER CORTEZ
2. NYLON CORTEZ
3. NYLON MARATHON
4. FLYTE-REGULAR
5. FLYTE-WET
6. BANGKOK
Bangkokは最後の、
No.6。
つまりBangkokは、後世のコレクターが名前だけを伝えている謎のサンプルではない。
Nike自身が初期の商品ラインの一つとして広告に掲載していたシューズである。
広告そのものが掲載された1972年11月号の『Runner’s World』現存例も確認できる。
Bangkokは、どんなシューズだったのか
この広告が重要なのは、名前だけで終わらないところだ。
Bangkokについて、Nikeは、
Dark Blue Reverse Leather Upper
を採用していると説明している。
現在なら「Blue Suede」と簡略化して紹介されることもある。
実際、後世の商品データベースではSuedeと記録されている。
しかしSOLEVAULTでは、1972年仕様を記録する場合、
REVERSE LEATHER
という当時広告の表現を優先する。
後世の言葉に置き換えてしまえば、1972年にNike自身がどのように商品を説明していたのかが消えてしまうからだ。
フルレングスのスポンジ・ミッドソール
Bangkokの構造でもう一つ重要なのが、
Full-Length Sponge Midsole。
である。
Nikeの当時広告は、足裏全体にクッションを与える構造として、このフルレングスのスポンジ・ミッドソールを訴求している。
No.008 Nylon Marathonと比較すると面白い。
Marathonの広告記述は、
Blue Foam Rubber Midsole。
Bangkokは、
Full-Length Sponge Midsole。
同じ初期Nikeのランニングシューズでも、Nike自身が異なる言葉で構造を説明している。
したがってSOLEVAULTでも同じものとしてまとめない。
アウトソールはSoft Cordocrep
アウトソールには、
Soft Cordocrep Outer Sole
が記録されている。
ここはNylon Marathonとの共通点でもある。
しかし、
「同じCordocrepだから同じソール」
とまでは言えない。
形状、厚さ、コンパウンド、内部構造まで同一だったことを、この広告だけでは確認できないからだ。
確認できるのは、
BangkokについてNikeがSoft Cordocrep Outer Soleと記載していた。
そこまでである。
Road RacingにもTrainingにも使う
Bangkokの用途も広告に残っている。
Road Racing / Training。
つまりBangkokはレース専用でも、トレーニング専用でもない。
Nikeはロードレースとトレーニングの両方へ使えるシューズとして紹介していた。
ここも重要だ。
現在のカテゴリー感覚を1972年へ持ち込んで、
「レーシングフラット」
「デイリートレーナー」
と現代的に細分化しすぎない。
当時Nikeが、
Road Racing or Training
と売っていた。
SOLEVAULTでは、そのまま記録する。
なぜ「Bangkok」だったのか
ここにはまだ空白がある。
Bangkok。
タイの首都バンコクを指す名称と考えるのが自然だが、NikeがなぜこのモデルにBangkokという名前を与えたのかを説明する一次資料は、現段階では確認できていない。
FlyteにはPhil Knightの命名に関する証言が残っている。
Oboriには福岡のランニングスポットとの関係を示す広告記録がある。
しかしBangkokについては、同じところまで届いていない。
したがって、
NAME ORIGIN|名称由来:未確認
とする。
「おそらくこうだろう」で穴を埋めない。
さらに古い「Tiger Bangkok」が存在する
ここからBangkokの歴史は複雑になる。
Nike以前に、
Onitsuka Tiger Bangkok
というシューズが存在していた。
これは無視できない。
1973年のアメリカのランニング誌にもTiger Bangkokが販売モデルとして掲載され、1973年10月の英国『Athletics Weekly』にもTiger Bangkokの販売記録が残る。後者では青いスエードアッパーを持つトレーニング/競歩向けシューズとして紹介されている。
つまり1972年前後には、
Nike Bangkok
と、
Tiger Bangkok
という同名のランニングシューズが存在する状況が生じていたことになる。
これは後のRoad Runner問題を考えるうえで非常に重要になる。
「BangkokからRoad Runnerへ改名された」という説
ヴィンテージNikeの世界では、
Nike Bangkokは、Onitsuka TigerがすでにBangkokという名前を使用していたため、Roadrunnerへ改名された
という説明が存在する。
日本のヴィンテージショップBAYSONも、この説を紹介している。
筋は通っている。
Tiger Bangkokが実在したことも確認できる。
Nike Bangkokも実在する。
その後Nike Road Runnerという名前も現れる。
しかし、
筋が通ることと、一次資料で確認できることは別である。
現段階では、
「Onitsukaとの名称衝突が理由でNikeがBangkokをRoad Runnerへ改名した」
と明記したNike/BRSの一次資料までは確認できていない。
したがってSOLEVAULTでは、
RENAMING THEORY|改名説:REPORTED / UNVERIFIED
とする。
1973年カタログが、話をさらに面白くする
そして、単純な「Bangkok → Road Runner改名説」に慎重になる理由がもう一つある。
1973年前半のNikeカタログを保存・研究している資料では、
Bangkok
と、
Road Runner
が同じカタログ内に並んで掲載されている。
その資料では、
BangkokはRoad RunnerのSuede版
と説明されている。
もしBangkokという名称が完全に廃止され、その代わりにRoad Runnerへ改名されたのなら、
なぜ1973年カタログに両方が存在するのか。
ここに問題が生まれる。
もちろん、旧名と新名が移行期に併存した可能性はある。
素材違いで名称を使い分けた可能性もある。
カタログの時期と名称変更の時期が重なった可能性もある。
しかし現段階では確定できない。
だからSOLEVAULTでは、
Bangkok=Road Runner
と一本化しない。
NIKE CHRONICLEでも、二つの名前は残っている
日本のヴィンテージNike研究資料として重要な『NIKE CHRONICLE [1971→1980s]』でも、
BANGKOK
と、
ROAD RUNNER
は、それぞれ目次項目として残されている。
一方、後の『NIKE CHRONICLE DELUXE』では、
BANGKOK / ROADRUNNER
という一つの項目としてまとめられている。
これ自体が、両モデルの関係が非常に近いことを示す補助材料になる。
しかし、それだけで改名時期や理由までは確定できない。
Style No.2085という記録
後世の商品データベースGOATには、
Nike Bangkok “Navy”
1972
SKU 2085
という記録が存在する。
アッパーはSuede、カテゴリーはRunningとされている。
これは今後、現存個体と品番体系を追うための手掛かりになる。
しかしSOLEVAULTでは、
MODEL NUMBER|2085:SECONDARY DATABASE RECORD
として扱う。
特にデータベース上の「1972年1月1日」のような日付は、正確な発売日が不明なヴィンテージ商品に設定された便宜的な日付である可能性を排除できない。
1972|RUNNING
INTRODUCTION
1972年の初期Nikeには、現在ほとんど名前を聞かない一足が存在した。
Nike Bangkok。
同年のBlue Ribbon Sports / Nike広告「A BRAND NEW LINE」では、Nikeの新しい商品ラインを構成する一足として明確に、
BANGKOK
の名前が掲載されている。
その仕様も残っている。
ダークブルーのreverse leather upper。
足裏全体へクッションを与えるfull-length sponge midsole。
そしてsoft cordocrep outer sole。
用途はroad racingまたはtraining。
これだけでもBangkokが実在した独立商品だったことは明らかである。
問題は、その後だ。
後年の資料ではBangkokとRoad Runnerの関係について複数の説明が見られる。そして今回確認した1972年BRS/Nikeカタログには、さらにROAD RUNNER SUEDEという独立した名称まで登場する。
BangkokはRoad Runnerだったのか。
Road Runner Suedeだったのか。
途中で名称が変更されたのか。
それとも別の商品だったのか。
SOLEVAULTでは、分からないものを一つにまとめない。
まず1972年に存在したNike Bangkokを、一足として保存する。
1972年「A BRAND NEW LINE」
Bangkokの存在を確認するうえで重要なのが、1972年のBRS/Nike広告、
“Born in the Track & Field Capital of the World — A BRAND NEW LINE”
である。
この広告では6モデルが番号付きで紹介されている。
Super Cortez
Nylon Cortez
Nylon Marathon
Flyte-Regular
Flyte-Wet
Bangkok
BangkokはそのNo.6として掲載されている。
ここで注意したいのは、この「6モデル」をNike史上最初の6足と解釈しないことである。
これは、この広告でBRSが紹介した**“A BRAND NEW LINE”の6モデル**であって、Nike創業以来の全商品を意味するものではない。
それでもBangkokにとっては非常に重要な資料だ。
後世のコレクターによる呼称ではなく、1972年当時のBRS自身がBANGKOKという商品名を使用していたことを証明するからである。
Dark Blue Reverse Leather Upper
1972年広告で最初に確認できる特徴が、
“dark blue reverse leather upper”
である。
Reverse leatherとは、革の裏面側を表に使用する仕上げを指す。
外観としてはスエード系の質感を持つことになる。
このため後年、Bangkokを「Suede Road Runner」と関連づける説明が生まれた可能性も考えられる。
しかし、
素材が似ている=同じ商品
ではない。
SOLEVAULTでは、1972年広告に書かれた事実として、
Dark Blue Reverse Leather
をBangkokのアッパー仕様として保存する。
Full-Length Sponge Midsole
Bangkokでもう一つ重要なのがミッドソールである。
広告では、
“full length sponge midsole providing cushion under entire foot”
という趣旨で説明されている。
つまり踵や前足部だけにクッション材を配置するのではなく、足裏全体にわたるスポンジミッドソールを採用していた。
同じ1972年のNikeでもソール構造は一様ではない。
Oboriにはsuction-cup outsole、sponge midsole、heel wedgeという特徴がある。
Marathonには軽量レーシングフラットとしてのcordocrep系ソールがある。
Bangkokではfull-length sponge midsoleが明確に商品特徴として打ち出されている。
初期Nikeがモデルごとに異なる構成を試していたことが分かる。
Soft Cordocrep Outer Sole
アウトソールについて広告は、
soft cordocrep outer sole
と記録している。
BRSはこれについて高いtractionを得られるという趣旨で宣伝していた。
ただし、それは1972年当時のメーカーによる性能訴求である。
SOLEVAULTでは、
OUTSOLE|Soft Cordocrep Outer Sole
と構造を記録し、
“great traction”
についてはPERIOD PERFORMANCE CLAIMとして分離する。
実際の性能を現代の基準から保証するものではない。
Road Racing or Training
Bangkokの用途も広告に明記されている。
“Good for road racing or training.”
つまりBangkokは、少なくともこの時点では、
Road Racing
Training
を対象としたランニングシューズだった。
現在の見た目だけからライフスタイルシューズなどと分類してはいけない。
1972年のBRSが何のために売っていたかを優先する。
SOLEVAULTではROOMをRUNNINGとする。
BangkokとRoad Runner
ここからがNo.010最大の研究課題になる。
後年の初期Nike研究やコレクター資料では、BangkokとRoad Runnerを関連づける説明が存在する。
その中には、
BangkokはRoad Runnerのスエード仕様だった
という説明や、
Bangkokという名称からRoad Runnerへ変更された
という説もある。
さらに、Onitsuka TigerにもBangkokという名称のシューズが存在したため、それがNike側の名称変更に関係したという説も見られる。
しかし、これらをそのまま確定史として採用することはできない。
なぜなら今回、非常に重要な一次資料側の情報が加わったからである。
1972年カタログに「ROAD RUNNER SUEDE」が存在する
今回確認した1972年BRS/Nikeカタログには、
ROAD RUNNER SUEDE
という商品名が明確に掲載されている。
そこでは、calf suede upperとcordo-rubber competition soleを組み合わせたレーシング/トレーニング用フラットとして説明されている。
さらに、
shock-absorbing midsole pads at ball and heel
SPENCO innersole
polyfoam tongue
arch bandage
などが記録されている。
これはBangkokの1972年広告にある、
dark blue reverse leather upper
full-length sponge midsole
soft cordocrep outer sole
という説明と、似ている部分もあれば、明確に記述が異なる部分もある。
特に注目すべきなのがミッドソールである。
Bangkokは、
full-length sponge midsole
Road Runner Suedeは、
ball and heelのshock-absorbing midsole pads
として記述されている。
この違いを無視して、
Bangkok=Road Runner Suede
と断定することはできない。
同じ靴なのか、別の靴なのか
現段階では三つの可能性を残す。
① BangkokとRoad Runner Suedeは別モデルだった。
② Bangkokが改良・仕様変更され、Road Runner Suedeになった。
③ 基本モデルは近いが、時期や市場によって名称・仕様表記が変化した。
どれが正しいかは、さらに当時の商品番号、価格表、注文書、カタログの版違い、現存個体を比較する必要がある。
重要なのは、答えが出ていない段階で一つにしてしまわないことである。
Onitsuka Tiger Bangkokとの問題
Bangkokという名前については、もう一つ避けて通れない問題がある。
Onitsuka Tiger Bangkokである。
Blue Ribbon SportsはもともとOnitsuka Tigerのアメリカ販売と深く関わっていた。
そのため、Nike Bangkokという名称がOnitsuka側の商品名と衝突し、後に変更されたという説が存在する。
歴史的な流れとしては十分あり得る。
しかし、
「OnitsukaにBangkokがあった」
ことと、
「それが理由でNike BangkokがRoad Runnerへ改名された」
ことは別の事実である。
前者を確認できても、後者には名称変更を直接示す資料が必要になる。
したがって現段階では、
REPORTED / UNVERIFIED
として保存する。
Bangkokは消してはいけない
もし将来、
Bangkok=Road Runner
だったことが完全に証明されたとしても、No.010を消す必要はない。
1972年のBRS広告には、
BANGKOK
という名前で商品が存在しているからである。
SOLEVAULTが保存するのは、現在まで残った商品名だけではない。
一時期だけ使われた名称。
短命だった仕様。
途中で変更されたモデル。
そうしたNikeの過程そのものを残す。
Bangkokはその典型になり得る。
WHY IT MATTERS|なぜ重要なのか
Nike Bangkokの重要性は、大ヒットしたことではない。
むしろ、現在ほとんど忘れられていることにある。
1972年のNikeは完成したブランドではなかった。
商品名も、素材も、ソールも、市場での位置づけも試行錯誤していた。
その過程で、
dark blue reverse leather
full-length sponge midsole
soft cordocrep outsole
を備えたロードレーシング/トレーニングシューズが、Bangkokという名前で売られていた。
そしてその周囲にはRoad Runner、Road Runner Suede、Onitsuka Tiger Bangkokという複雑な歴史が存在する。
この曖昧さまで含めて保存することに価値がある。
SOLEVAULT VIEW
有名なモデルだけを並べれば、Nikeの歴史はきれいに見える。
Cortez。
Blazer。
Waffle。
しかし、Bangkokを入れると歴史は少し複雑になる。
なぜBangkokという名前だったのか。
なぜ消えたのか。
Road Runnerとは何だったのか。
同じ靴なのか。
違う靴なのか。
その答えがまだ完全には出ていない。
だから面白い。
資料庫は、分かっていることだけを並べる場所ではない。
どこまで分かっていて、どこから分からないのかまで残す場所である。
Nike Bangkokは、その原則を象徴する一足になる。
ARCHIVE DATA|アーカイブデータ
MODEL|モデル名: Nike Bangkok/ナイキ バンコック
PERIOD DESIGNATION|当時の商品表記: BANGKOK
YEAR|登場年: 1972
ROOM|分類: RUNNING/ランニング
TYPE|用途: Road Racing / Training Shoe/ロードレーシング・トレーニング用シューズ
UPPER|アッパー: Dark Blue Reverse Leather/ダークブルー・リバースレザー
MIDSOLE|ミッドソール: Full-Length Sponge Midsole/フルレングス・スポンジミッドソール
OUTSOLE|アウトソール: Soft Cordocrep Outer Sole/ソフト・コードクレープ・アウトソール
PERIOD PERFORMANCE CLAIM|当時の性能訴求: “great traction” — BRS広告表現
CONFIRMED USE|確認できる用途: Road Racing / Training
RELATED MODEL|関連モデル: Nike Road Runner / Road Runner Suede
NAME RELATION|名称関係: Bangkok→Road Runnerへの改名説あり。現時点では未確定
ONITSUKA RELATION|オニツカとの関係: Onitsuka Tiger Bangkokとの名称衝突が改名理由だったとする説あり。直接資料未確認
MODEL NUMBER|品番: 未確認
COUNTRY OF MANUFACTURE|製造国: 未確認
FACTORY|製造工場: 未確認
ORIGINAL COLOR|当時カラー: Dark Blue/ダークブルーを1972年広告で確認
ORIGINAL PRICE|当時価格: 未確認
PRODUCTION QUANTITY|生産数: 未確認
SOURCE STATUS|資料確認状況: Bangkokの存在・基本仕様=DOCUMENTED / Road Runnerとの関係=UNVERIFIED
IMAGE STATUS|画像資料: 1972年BRS/Nike広告で確認
CURRENTLY CONFIRMED|現在確認できていること
1972年BRS/Nike「A BRAND NEW LINE」広告にBANGKOKが独立商品として掲載されている。
同広告から、dark blue reverse leather upper、full-length sponge midsole、soft cordocrep outer soleを備え、road racingまたはtraining用として販売されていたことを確認できる。
また今回確認した1972年BRS/Nikeカタログには、ROAD RUNNER SUEDEが独立名称で掲載されている。
CURRENTLY UNCONFIRMED|現在未確認のこと
BangkokとRoad Runner、Road Runner Suedeの正確な商品上の関係は未確定。
特に、
BangkokからRoad Runnerへ正式に改名されたのか
Road Runner SuedeとBangkokが同一仕様だったのか
商品番号が共通または変更されたのか
Onitsuka Tiger Bangkokとの名称問題が改名の直接原因だったのか
については、一次資料による追加確認が必要である。
Bangkokの当時価格、品番、製造国・工場、総生産数も未確認。
SOURCES|資料
Blue Ribbon Sports / Nike — “A BRAND NEW LINE”, 1972
BANGKOKの商品名、dark blue reverse leather upper、full-length sponge midsole、soft cordocrep outer sole、road racing / training用途を確認。
Blue Ribbon Sports / Nike Product Catalog, 1972 — ROAD RUNNER SUEDE
SOLEVAULT確認資料。Road Runner Suedeが独立名称で掲載され、calf suede upper、cordo-rubber competition sole、ball / heel midsole pads、SPENCO innersole等を備えることを確認。
Early Nike / Onitsuka period documentation
Bangkok、Road RunnerおよびOnitsuka Tiger Bangkokの名称関係について継続調査。
010はこれでかなり良くなります。
そして今回のカタログによって、以前より一歩進みました。「Bangkok=Road Runner」と書いて片付けないこと自体が重要な成果です。
次の011からはいよいよCortezですが、011〜019は今回のカタログで全部もう一度監査する価値があります。 特にLeather I / Nylon I / Leather II / Nylon IIを当時BRS自身が分けて掲載しているので、ここはSOLEVAULTの強いところになります。
INTRODUCTION
1972年のNikeを一足ずつ掘っていく。
Obori。
Marathon。
Flyte。
そして次に現れるのが、
Bangkok。
現在のNikeで「Bangkok」という名前を聞いて、このシューズを思い浮かべる人はほとんどいないだろう。
しかし1972年当時のNike広告には、その名前がはっきり残っている。
しかも写真だけではない。
BANGKOK
という商品名とともに、アッパー、ミッドソール、アウトソール、用途まで記録されている。
さらに後年の資料を追うと、Bangkokのすぐ隣に、
Road Runner
という別の名前が現れる。
この二足は何だったのか。
同じ靴だったのか。
素材違いだったのか。
それともBangkokからRoad Runnerへ名前が変わったのか。
資料によって説明は一致していない。
だからSOLEVAULT No.010では、後から作られた物語を先に置かない。
まず、
1972年にNike Bangkokという一足が存在した。
そこから記録する。
1972年、Nike自身の広告に「BANGKOK」がある
Bangkokの存在を確認する強い資料が、初期Nike広告、
“Born in the Track & Field Capital of the World — A BRAND NEW LINE”
である。
この広告には6足が番号付きで掲載されている。
1. SUPER CORTEZ
2. NYLON CORTEZ
3. NYLON MARATHON
4. FLYTE-REGULAR
5. FLYTE-WET
6. BANGKOK
Bangkokは最後の、
No.6。
つまりBangkokは、後世のコレクターが名前だけを伝えている謎のサンプルではない。
Nike自身が初期の商品ラインの一つとして広告に掲載していたシューズである。
広告そのものが掲載された1972年11月号の『Runner’s World』現存例も確認できる。
Bangkokは、どんなシューズだったのか
この広告が重要なのは、名前だけで終わらないところだ。
Bangkokについて、Nikeは、
Dark Blue Reverse Leather Upper
を採用していると説明している。
現在なら「Blue Suede」と簡略化して紹介されることもある。
実際、後世の商品データベースではSuedeと記録されている。
しかしSOLEVAULTでは、1972年仕様を記録する場合、
REVERSE LEATHER
という当時広告の表現を優先する。
後世の言葉に置き換えてしまえば、1972年にNike自身がどのように商品を説明していたのかが消えてしまうからだ。
フルレングスのスポンジ・ミッドソール
Bangkokの構造でもう一つ重要なのが、
Full-Length Sponge Midsole。
である。
Nikeの当時広告は、足裏全体にクッションを与える構造として、このフルレングスのスポンジ・ミッドソールを訴求している。
No.008 Nylon Marathonと比較すると面白い。
Marathonの広告記述は、
Blue Foam Rubber Midsole。
Bangkokは、
Full-Length Sponge Midsole。
同じ初期Nikeのランニングシューズでも、Nike自身が異なる言葉で構造を説明している。
したがってSOLEVAULTでも同じものとしてまとめない。
アウトソールはSoft Cordocrep
アウトソールには、
Soft Cordocrep Outer Sole
が記録されている。
ここはNylon Marathonとの共通点でもある。
しかし、
「同じCordocrepだから同じソール」
とまでは言えない。
形状、厚さ、コンパウンド、内部構造まで同一だったことを、この広告だけでは確認できないからだ。
確認できるのは、
BangkokについてNikeがSoft Cordocrep Outer Soleと記載していた。
そこまでである。
Road RacingにもTrainingにも使う
Bangkokの用途も広告に残っている。
Road Racing / Training。
つまりBangkokはレース専用でも、トレーニング専用でもない。
Nikeはロードレースとトレーニングの両方へ使えるシューズとして紹介していた。
ここも重要だ。
現在のカテゴリー感覚を1972年へ持ち込んで、
「レーシングフラット」
「デイリートレーナー」
と現代的に細分化しすぎない。
当時Nikeが、
Road Racing or Training
と売っていた。
SOLEVAULTでは、そのまま記録する。
なぜ「Bangkok」だったのか
ここにはまだ空白がある。
Bangkok。
タイの首都バンコクを指す名称と考えるのが自然だが、NikeがなぜこのモデルにBangkokという名前を与えたのかを説明する一次資料は、現段階では確認できていない。
FlyteにはPhil Knightの命名に関する証言が残っている。
Oboriには福岡のランニングスポットとの関係を示す広告記録がある。
しかしBangkokについては、同じところまで届いていない。
したがって、
NAME ORIGIN|名称由来:未確認
とする。
「おそらくこうだろう」で穴を埋めない。
さらに古い「Tiger Bangkok」が存在する
ここからBangkokの歴史は複雑になる。
Nike以前に、
Onitsuka Tiger Bangkok
というシューズが存在していた。
これは無視できない。
1973年のアメリカのランニング誌にもTiger Bangkokが販売モデルとして掲載され、1973年10月の英国『Athletics Weekly』にもTiger Bangkokの販売記録が残る。後者では青いスエードアッパーを持つトレーニング/競歩向けシューズとして紹介されている。
つまり1972年前後には、
Nike Bangkok
と、
Tiger Bangkok
という同名のランニングシューズが存在する状況が生じていたことになる。
これは後のRoad Runner問題を考えるうえで非常に重要になる。
「BangkokからRoad Runnerへ改名された」という説
ヴィンテージNikeの世界では、
Nike Bangkokは、Onitsuka TigerがすでにBangkokという名前を使用していたため、Roadrunnerへ改名された
という説明が存在する。
日本のヴィンテージショップBAYSONも、この説を紹介している。
筋は通っている。
Tiger Bangkokが実在したことも確認できる。
Nike Bangkokも実在する。
その後Nike Road Runnerという名前も現れる。
しかし、
筋が通ることと、一次資料で確認できることは別である。
現段階では、
「Onitsukaとの名称衝突が理由でNikeがBangkokをRoad Runnerへ改名した」
と明記したNike/BRSの一次資料までは確認できていない。
したがってSOLEVAULTでは、
RENAMING THEORY|改名説:REPORTED / UNVERIFIED
とする。
1973年カタログが、話をさらに面白くする
そして、単純な「Bangkok → Road Runner改名説」に慎重になる理由がもう一つある。
1973年前半のNikeカタログを保存・研究している資料では、
Bangkok
と、
Road Runner
が同じカタログ内に並んで掲載されている。
その資料では、
BangkokはRoad RunnerのSuede版
と説明されている。
もしBangkokという名称が完全に廃止され、その代わりにRoad Runnerへ改名されたのなら、
なぜ1973年カタログに両方が存在するのか。
ここに問題が生まれる。
もちろん、旧名と新名が移行期に併存した可能性はある。
素材違いで名称を使い分けた可能性もある。
カタログの時期と名称変更の時期が重なった可能性もある。
しかし現段階では確定できない。
だからSOLEVAULTでは、
Bangkok=Road Runner
と一本化しない。
NIKE CHRONICLEでも、二つの名前は残っている
日本のヴィンテージNike研究資料として重要な『NIKE CHRONICLE [1971→1980s]』でも、
BANGKOK
と、
ROAD RUNNER
は、それぞれ目次項目として残されている。
一方、後の『NIKE CHRONICLE DELUXE』では、
BANGKOK / ROADRUNNER
という一つの項目としてまとめられている。
これ自体が、両モデルの関係が非常に近いことを示す補助材料になる。
しかし、それだけで改名時期や理由までは確定できない。
Style No.2085という記録
後世の商品データベースGOATには、
Nike Bangkok “Navy”
1972
SKU 2085
という記録が存在する。
アッパーはSuede、カテゴリーはRunningとされている。
これは今後、現存個体と品番体系を追うための手掛かりになる。
しかしSOLEVAULTでは、
MODEL NUMBER|2085:SECONDARY DATABASE RECORD
として扱う。
特にデータベース上の「1972年1月1日」のような日付は、正確な発売日が不明なヴィンテージ商品に設定された便宜的
したがって、
1972年1月1日発売
とは記録しない。
品番2085についても、1972年当時のカタログや箱ラベルなどで照合できればCONFIRMEDへ上げる。
Bangkokは、Road Runnerの前史なのか
現在までの資料から最も慎重に言えるのは、
BangkokとRoad Runnerには非常に近い関係がある。
ここまでだ。
1973年カタログ研究ではBangkokをRoad RunnerのSuede版としている。
別のヴィンテージ資料ではBangkokからRoadrunnerへ改名されたとする。
一方、1973年カタログには両名称が存在する。
したがってNo.010では、
BangkokをRoad Runnerへ吸収しない。
BangkokはBangkokとして収蔵する。
Road RunnerはRoad Runnerとして別に調査する。
そのうえで、
両者の関係を横断的に記録する。
これが最も安全で、資料価値も高い。
WHY IT MATTERS
Nike Bangkokの価値は、単に「1972年の珍しいNike」ということではない。
この一足を追うと、Nike誕生直後の商品開発が、Onitsuka Tiger時代と完全に切り離された世界ではなかったことが見えてくる。
Nike Bangkok。
Tiger Bangkok。
Nike Road Runner。
似た用途。
近い時代。
そして複雑な名称関係。
1972年のNikeは、何もないところから突然完成したブランドとして現れたわけではない。
Blue Ribbon Sportsとして日本のランニングシューズを扱ってきた歴史の延長線上で、自分たちの商品体系を作り始めていた。
Bangkokは、その境界線に存在する一足である。
SOLEVAULT VIEW
Bangkokのようなシューズこそ、SOLEVAULTで残す意味がある。
有名なモデルだけを追えば、
Nike Bangkok
という名前そのものが消える。
Road Runnerの前身だった。
Suede版だった。
改名された。
後世にはいくつもの説明が残っている。
しかし1972年へ戻れば、まず確実なものがある。
Nike自身の広告に、
BANGKOK
と書かれている。
写真がある。
Dark Blue Reverse Leather。
Full-Length Sponge Midsole。
Soft Cordocrep Outer Sole。
Road Racing or Training。
それだけでも、一足の輪郭はかなり戻せる。
そして分からない部分は、分からないまま残す。
BangkokとRoad Runnerの関係が今後一次資料によって確定したなら、そのとき更新すればいい。
有名だから載せるのではない。
存在したから記録する。
1972年の広告に残されたNo.6。
それが、SOLEVAULT No.010 Nike Bangkokである。
ARCHIVE DATA
SOLEVAULT No.010
MODEL|モデル名: Nike Bangkok(ナイキ バンコック)
PERIOD PRODUCT NAME|当時の商品表記: BANGKOK
YEAR|登場年: 1972
DEBUT|初登場: 1972年資料で確認
ROOM|分類: RUNNING
TYPE|用途: Road Racing / Training(ロードレース/トレーニング)
BRAND|ブランド: Nike
ORGANIZATION|当時の組織: Blue Ribbon Sports / Early Nike
NAME ORIGIN|名称由来: 未確認
UPPER|アッパー: Dark Blue Reverse Leather Upper
MIDSOLE|ミッドソール: Full-Length Sponge Midsole
OUTSOLE|アウトソール: Soft Cordocrep Outer Sole
COLOR|カラー: Dark Blue / Navy系
COUNTRY OF MANUFACTURE|製造国: 未確認
FACTORY|製造工場: 未確認
MODEL NUMBER|品番: 2085とする二次データベース記録あり/当時資料による確認継続
ORIGINAL PRICE|当時価格: 未確認
PERIOD ADVERTISEMENT|当時広告: “Born in the Track & Field Capital of the World — A BRAND NEW LINE”
ADVERTISEMENT POSITION|広告掲載番号: No.6 of 6
CATALOG APPEARANCE|カタログ掲載: 1973 Nike Winter / Spring CatalogでBangkok掲載を確認する研究資料あり
RELATED MODEL|関連モデル: Nike Road Runner
PRE-NIKE NAME CONNECTION|Nike以前の同名モデル: Onitsuka Tiger Bangkok
ROAD RUNNER RELATION|Road Runnerとの関係: 1973カタログ研究資料ではRoad RunnerのSuede版と説明
RENAMING THEORY|改名説: Onitsuka Tigerとの名称重複によりRoad Runnerへ変更されたとする二次資料あり/一次資料未確認
KEY ATHLETE|主要選手: 未確認
COMPETITION USE|競技使用: 未確認
PRODUCTION QUANTITY|生産数: 未確認
KNOWN VARIANTS|確認済み派生型: 継続調査
SOURCE STATUS|資料確認状況: DOCUMENTED / PERIOD AD CONFIRMED / PARTLY CONFIRMED / RENAMING UNVERIFIED
CURRENTLY CONFIRMED|現在確認できていること
1972年の初期Nike広告にBANGKOKがNo.6として写真付きで掲載されている。広告現存例は1972年11月号『Runner’s World』で確認できる。
同広告から、BangkokがDark Blue Reverse Leather Upper、Full-Length Sponge Midsole、Soft Cordocrep Outer Soleを持ち、Road Racing / Training用途として紹介されていたことが確認できる。
また1973年Nikeカタログ研究資料ではBangkokとRoad Runnerの両方が掲載され、BangkokをRoad RunnerのSuede版と説明している。
Onitsuka Tiger側にもBangkokというモデルが存在し、1973年の販売記録まで確認できる。
CURRENTLY UNCONFIRMED|現在未確認のこと
Nike Bangkokの正確な発売月、当時価格、製造国、製造工場、総生産数、全オリジナルカラー、1972年当時の正式Style Number、主要着用選手、競技実績、Bangkokという名称の由来は未確認。
また、
Nike BangkokがOnitsuka Tiger Bangkokとの名称衝突を理由としてRoad Runnerへ正式に改名されたのか
についても、現段階ではNike/BRSの一次資料による確定には至っていない。
BangkokとRoad Runnerが、
旧名/新名なのか、
素材違いなのか、
一時的に併売された兄弟モデルなのか、
これらが時期によって変化したのか
については、1972〜74年のカタログ、価格表、箱ラベル、Style Numberを照合して継続調査する。
PRIMARY & ARCHIVAL SOURCES|主要資料
Nike — “Born in the Track & Field Capital of the World — A BRAND NEW LINE”
No.6 BANGKOKの商品名、写真、Dark Blue Reverse Leather、Full-Length Sponge Midsole、Soft Cordocrep Outer Sole、Road Racing / Trainingという仕様・用途を確認する最重要同時代資料。1972年11月『Runner’s World』現存号で広告掲載を確認。
1973 Nike Winter / Spring Catalog Research
BangkokとRoad Runnerを同一カタログ内で確認し、BangkokをRoad RunnerのSuede版として説明する重要な比較資料。
NIKE CHRONICLE [1971→1980s]
BANGKOKとROAD RUNNERをそれぞれ独立項目として収録する日本のヴィンテージNike研究資料。
NIKE CHRONICLE DELUXE
後の改訂版では「BANGKOK / ROADRUNNER」としてまとめて扱われており、両者の関係を研究する補助資料。
1973 Athletics / Running Period Sources — Tiger Bangkok
Onitsuka Tiger Bangkokが同時期にも実在・販売されていたことを確認する比較資料。
GOAT — Nike Bangkok “Navy” 1972
Style/SKU 2085、Navy、Suede、Runningとする後世の商品データベース。Style Number確認の手掛かりとして使用し、一次資料確認まではSECONDARY扱い。
BAYSON — Vintage Nike Roadrunner
BangkokからRoadrunnerへの改名説を記録するヴィンテージ資料。改名理由については一次資料未確認のためREPORTED扱い。
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